3 オレじゃなくても…
「航平、タバコやめた?」
練習を挟んでの休憩時間、光史が不思議そうな顔をしてオレに尋ねた。
「えっ!?やめてないけど…なんで?」
「いや、ガム噛んでるから珍しいなと思って…」
約束―――
あのコンビニの女の子の顔が浮かんだ。
あの場は適当なこと言って約束させられた形になったけどオレ的にはタバコはやめるつもりは全くない。
タバコだって改装の済んだ今まで行ってたコンビニで買っている。
それなのにあの店に足を運んでいるのは何故なんだろう…?
あの子の憎まれ口を聞きたいから?
親にもタバコはやめた方がいいと何度も言われてきた。
だから全くの赤の他人から意見されることが、どこか心地良いのかもしれない。
北京五輪でメダルをとってから他人のオレを見る目が変わってしまっていたから…
オレの顔を見るなり「メダリストの内村」というレッテルが貼られ何もかも手放しで嬉しそうな顔をする。
そのことが嫌なわけじゃない。
嬉しい気持ちもあるのだが特別視されることが嫌なんだ…
オレは何も特別な事をしているわけじゃなく、ただ自分の中にある【理想の体操、理想の演技】を求め続けて
いるだけなのに…
あの子はオレが「メダリストの内村」だと言う前に、ひとりのアスリートとしてオレを見ていた。
オレがメダリストじゃなくてもきっとあの子は同じ事を言うに違いない。
そんな想像をして少し笑えた。
いつもあの子は真剣な眼をしていたから―――
オレじゃなくてもきっとあの子は同じ事、言うはずだ。
オレじゃなくても―――
4 初めての有名人
「いらっしゃいませ~!!」
少し前までそう言うことさえ恥ずかしくてためらわれていた言葉が今では自然と口に出る。
『接客は笑顔が一番だからね!』
店長にそう言われ続けてやっと自然な笑顔が出来るようになった。
初めてのバイト―――
九州で生まれ育ち、目指していた大学に行きたいがため母の反対を押し切って上京して来た私。
「おじさんの店でバイトすること!」「おじさんの店から徒歩10分以内の部屋をみつけてそこに住むこと!」
を条件に上京を許してもらった。
そう―――ここは母方の遠い親戚の経営するコンビニ…
講義の無い午前中や午後、出来るだけシフトに入る。
親にはなるべく負担、掛けたくないから…
今日も講義の無い午前中にレジに入っていた時のこと―――
「いらっしゃいませ~!」
いつものように笑顔であいさつした瞬間、胸が高鳴った。
今の人、もしかして内村選手?
なんでこんなとこに?
いやいや―――似てるだけの人かもしれない。
上京して早数ヶ月、今まで誰ひとりとして有名人を見かけた事はない。
まさか、世界的に有名な選手がこんなとこに来るはずがない。
こんなとこ?――――――おじさん、ごめんなさい…
とにかく落ち着け、落ち着け…
店の奥、ドリンクの入った冷蔵庫の前で立ち止まる〝内村選手に似た人〟の肩にかけたバッグにネームが刺繍
されていることに気付いた。
はっきりと金色の糸で【内村】と刺繍されている。
やっぱり、あの人はアノ内村航平選手だったんだ!!
解説 あとがき
なんか、色々説明してたら長くなりそうな気配―――
なるべく短くしたいんだけど文才の無い私はこんな書き方しかできない…
もっとたくさん本、読んどけばよかった…orz
(この物語の成分は主の妄想100%で出来ています)